ストレスとメンタルヘルスの対応のあり方について(後半)
今回は企業における対応策について、前回に引き続きフォレストコンサルティング経営人事フォーラム代表 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授(専門領域:人的資本経営論等) (一社)人間能力開発機構 評議員 人的資本経営検定試験委員長(関連資格)GRI スタンダード国際認定・ISO30414 アセッサーの松井 勇策先生からお伝えします。
★ストレスとメンタルヘルスの対応のあり方について(前半)
INDEX
企業における対応策
対応策の考え方・現状把握と課題への対応
今までに見てきたように、メンタルヘルス不調は社会的にも重要な問題であり、1社1社の企業から見ても重要視される問題です。戦略的にメンタルヘルス対策を設計するにはどうすればいいのかを考えたいと思います。
まず、企業が取る手段は、一次予防・二次予防・三次予防に分けられます。
●病気になる前の健康者に対して、病気の原因と思われるものの除去や忌避に努め、健康の増進を図って病気の発生を防ぐなどの予防措置をとることを一次予防といいます。
●二次予防は、病気になった人をできるだけ早く発見し、早期治療を行い、病気の進行を抑え、病気が重篤にならないように努めることをいう。
●三次予防は、病気が進行した後の、後遺症治療、再発防止、残存機能の回復・維持、リハビリテーション、社会復帰などの対策を立て、実行することをいいます。
既にメンタルヘルスの不調が出てしまっている方への対応が三次予防に関することですので緊急性が高く、課題への対応は三次予防→二次予防→一次予防の順番に取り組んでいくのが良いと思います。
それぞれの予防方法として現在の状況をまとめ、状況把握の上で(1)現在の推進状況の把握、(2)課題を整理、(3)問題の企画 という順に考えていくということが考えられます。
では具体的にどのような手段が取り得るのかを見ていきます。
メンタルヘルスケアへの対応方法1 心の健康づくり計画
2006年3月に厚生労働省から出された「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では企業において「心の健康づくり計画」を定めることが推奨されることになりました。これは、メンタルヘルスケアに関する企業の方針を決定し、社内・社外に表明し、かつ活動スケジュールや体制の基となる事項を決定し、行っていくためのものです。
内容として、企業の代表者が宣言する、メンタルヘルスケアに関する基本方針や社内の体制、そのほか具体的な実施の計画までを定めることになっています。
メンタルヘルスケアの対応方法2 健康経営
さらに近年「健康経営」と呼ばれる取り組みが行われています。従業員の健康に繋がる一定の施策を行った企業に対し「健康経営」として認定するというものです。
従業員の生産性への注目や、メンタルヘルスを含めた健康問題が広く社会的に問題として意識されてきたことが背景にあります。
そうした中で「従業員の健康を積極的に改善すると、生産性が強化され向上できる」という考え方が広く採り上げられるようになりました。メンタルヘルスケアについても、より積極的に向上させるような施策を採ることが生産性を向上させる、という考え方に繋がっています。こうした健康経営の取り組みの中で、前項の「心の健康づくり計画」の宣言や体制整備、ほか様々なメンタルヘルスケアを含む健康への取り組みを行うことが基本的な要件となっています。
健康経営の評価も一つのプロセスとして、個人の健診結果の改善や生活習慣の改善が図られ、それにより長期欠勤等の社員の仕事への身体的・事実的な障害の解消や、個々人の生産性の改善といった意欲の向上が図られることや、この個人個人への効果が組織としての従業員満足度向上や、コミュニケーション活性など組織的効果として現れ、さらに健康経営実践により、対外的な PR 効果として人材の維持・確保の容易性や、ブランディング効果も生まれることが目指されています。
(参考 健康経営優良法人認定制度の評価指標) ストラクチャー評価指標 健康経営を実践するための、経営層のコミットメントや、人材・組織体制の有無、構成等に関する評価指標です。下記は一例 ●経営理念としての健康経営の位置付け ●産業医、コメディカル等との連携体制 ●健保組合等保険者との連携の有無 プロセス評価指標 健康経営を実践するにあたっての様々な施策が機能しているかどうかを判断する指標です。下記は一例 ●健康診断の受診率 ●保健指導の実施率 アウトカム評価指標 健康経営の質を評価する指標であり、適切なストラクチャーにおいて、提供されるプロセスが従業員の健康状態や、ひいては企業利益に結びついていることを評価する指標です。下記は一例 ●生産性の程度 ●身体的な指標、従業員が健康であるかどうか ●従業員の生活習慣として、喫煙 ●飲酒・運動・睡眠休養等の状況がどうであるか ●従業員の心理的な指標が基準をクリアしているかどうか ●勤続や離職率など、就業に関連する指標 |
メンタルヘルスケアへの対応方法3 ストレスチェック
2015年12月1日に、労働安全衛生法にストレスチェックが制度として規定されました。これは従業員50名以上の事業場での義務となります。年に1回の実施が定められており、調査票を使用し、①ストレス要因 ②ストレス反応 ③周囲のサポート の3点について検査を実施するものです。
メンタルヘルスケアの対応方法4 ラインケア・セルフケアの様々な方法
ストレスチェックを基本的な取り組みとして、企業の中で意識すべきメンタルヘルスケアの取り組みには様々なものがあります。
ひとつは、ラインによるケアやセルフケアで、主に現場の管理職の方を中心とした、メンタルヘルスの状態の把握と現場での対応方法の整備です。社内でのエスカレーションや体制などの整備を行っていくこと、メンタルヘルスへの知識や理解を深め、問題が起きないように働く方自身や現場の部署内で対策ができるようにしていくことです。
もうひとつは、社内の衛生委員会などを中心とした不調者に対応する担当となる体制の整備と、もし不調者が休職など、一時的な職場からの離脱が生じた場合への対応方法の整備です。
メンタルヘルスケアの対応方法5 マインドフルネス
ラインケア・セルフケアのいずれでも使える方法として「マインドフルネス」があります。心とうまく向き合う方法としての導入が増えているようです。マインドフルネスを適切に取り入れることで、「社員の業務効率がアップした」「マネジメント能力が向上した」といった成果も報告されています。
マインドフルネスは心を整える方法の一つで、仏教の「瞑想」がベースにあります。マサチューセッツ大学医学部名誉教授のジョン・カバットジン博士が「マインドフルネスストレス低減法(MBSR)」として1979年に発表したことで世に広まったとされています。
マインドフルネスの効果はメンタルヘルス上も広く認められていきてます。
マインドフルネスは、端的にいえば「今この瞬間」に意識を集中することです。集中することに対して「できた」「できなかった」の判断はせず、「今この瞬間」をあるがままに感じます。結果を求めるものではなく、プロセス自体がマインドフルネスの一部と考えるといいでしょう。
今この瞬間の体験や気持ちに判断を加えず、あるがままに気づく、「今」に集中することで、「過去の失敗」や「未来への不安」などからいったん離れることができる、結果的に不安を和らげることにつながる、ということです。
科学的には、脳の働きに作用することが明らかになっています。私たちは一見ぼんやりしているようなときでも、意識せずに脳を働かせている場合があります。例えば、「食事中に仕事のことを考えていたら、味や満腹感を感じる暇もなく、気づいたら食事が終わっていた」といった経験がある人は少なくないでしょう。このような「無意識に脳が活性化している」状態、いわゆる「脳の過剰な活動」を抑えるためにマインドフルネスが効果的であることが実証されています。また、マインドフルネスは脳の過剰な働きを抑えることで、オン・オフの切り替えをしやすくする効果も期待できます。
上記の効果を得るためのマインドフルネスの手法として、代表的なものは「瞑想」ですが、ウォーキングやジョギング、食事、水を飲むなど、日々の生活のなかでその行動ごとに、周囲の状況や自分の心や体に意識を向けることもマインドフルネスといえます。
まとめ
近年、経済・産業構造の変化に伴い、労働者の間で仕事やキャリア、生活との調和に関する不安やストレスが増加しています。これらのメンタルヘルス課題は主に仕事や生活に起因し、理解が必要であり、職業性ストレスモデルを通じてストレスの構造を理解し、メンタルヘルス不調の内容を把握することが重要です。
職場でのメンタルヘルス対策には制度的な要素から個人の注意点までさまざまな方法があります。そのため、戦略的なアプローチが最も重要で、心の健康づくり計画、健康経営、ストレスチェック、ラインケアとセルフケア、マインドフルネスなどが代表的な制度として挙げられますので、企業におけるメンタルヘルス対策の観点も留意することをおすすめします。
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筆者:松井 勇策 社会保険労務士・公認心理師・認定 AI ジェネラリスト
フォレストコンサルティング経営人事フォーラム代表 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授(専門領域:人的資本経営論等) (一社)人間能力開発機構 評議員 人的資本経営検定試験委員長(関連資格)GRI スタンダード国際認定・ISO30414 アセッサー 東京都社労士会 先進人事経営検討会議 議長 名古屋大学法学部卒業後、株式会社リクルートにて組織人事コンサルティング、のち経営管理部門で法務・IT マ ネジメント・東証一部(当時)の上場監査等を行う。社労士・公認心理師の資格取得後に独立。人的資本経営の情報発信やコンサルティング・成長企業のIPO労務監査等を多く実施、ほか適性検査やエンゲージメントサーベイなどHR 関係商品の開発顧問、HR 関係メディア制作顧問等も複数行っている。
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